横浜山手犬猫医療センターの日記

≪横浜山手犬猫医療センター スタッフほのぼのブログ≫

ペットロス

「ペットロス」という言葉をお聞きになったことはありますでしょうか?

さきほど院長と話題になったので、少し触れたいと思います。

 

私たちは動物病院ですから、みなさんが普段家族の一員として接しているわんちゃん、猫ちゃんが老衰、病気、怪我などでその命を終えてしまう場面が時折あります。

ご家族が悲しむのと同様、私たちも命を救えなかったことに悲しみを感じ、なにか他に手立てはなかったのか?といつもスタッフを話し合います。

一方で、やはり医療スタッフですから、現状を正確に把握した結果、おおよその余命についてある程度の判断はします(実は人の場合とは異なり、外れることが多いのです)。

このことは、やはりご家族も同様のケースが多く、ある程度覚悟をされてご一緒に来院されることもよくあります。

 

普段私たちは、動物の病気や怪我の診断、治療、余命を把握することだけをしてはいません。オーナーの方がわんちゃん、猫ちゃんの状態をどう把握しておられるか?どう伝えたら問題を一緒に共有できるか?このような視点も検討し、状態の説明と治療方針、選択肢について慎重に話し合います。

 

ペットロスという言葉そのものに、私たちは非常に神経を使います。例えば大切な家族であるペットが亡くなった、その時に人は悲しいはずであり、その人のケアをしなくてはならない、というニュアンスがどうしても入ってしまいかねない言葉だからです。

一定時間一緒に過ごした生き物である以上、それが昆虫でも鑑賞魚でも鳥類でも、一緒に過ごした方の感情に一定の変化が生じるのは通常のことと思います。

ペットロスをケアしなくてはいけない、この考え方が浸透してきた背景には、グリーフ(悲嘆)という人の喪失感情に対する精神医学のアプローチがあります。

人の死で考えると少しわかりやすいかもしれません。曰く、大切な家族が亡くなる、それは等しく誰にでも訪れることです。精神医学では、大切な家族が確かに亡くなったという事実を受け止め、供養という形で再び繋がり、日常生活に戻っていく、これが「概ね」よい状態、というように考えます。医学の世界でもこのことには大変神経を使っており、決して「これが正しい」という考え方は採りません。

例えば人が亡くなって1年が過ぎた、一周忌を迎えるとやはり悲しみがこみあげてくる、そのようなこともあるかもしれません。これを記念日効果といいます。

ただその程度や向き合い方、気持ちの処理の仕方というのは千差万別で、亡くなった人との関係性や価値観、精神状態によって様々なのです。

感情の変化についても広く深く研究が進んでおり、説を唱えた学者によって喪失を味わった方の心身の状態の把握は多岐にわたっています。結果として答えは一つではなく、いわゆる「適切な(マニュアル的な)」対応などない、が根底の考え方となっています。

 

私たちは、大切なペットを亡くされた方についても同じように考えます。一括りには決してできないペットオーナーの皆様のお気持ちについて整理把握して対処する、ということはできないと考えています。

だからこそ、大切なわんちゃん、猫ちゃんの終末医療に携わる場合、できるだけオーナーの皆様のお気持ちの状態を、ご家族と交わす言葉やお顔色、私たちとのやりとりを通じて少しでも理解に「近づこう」と考えています。

 

終末医療の際に、私たちから特別なにかをすることはありません。ただ、もしペットオーナーの皆様が「気持ちがきつい」「終末に立ち会うことが悲しい」「いなくなった後どうしたらいいか?」このようなお気持ち、お悩みがあったら、ぜひ診察の時に我慢せずに私たちに話してみてください。お友達に話してみるのもいいと思います。まず「不安だ」「悲しい」そうした状態だということを発信してみる、ということがとても大切だと思います。

 

と、年明け早々少しシリアスな話題でしたが、よりよいわんちゃん、猫ちゃんとの関係、接し方、そのようなことをご家族皆さんで話し合っていただけたら幸いです。

 

 本年もよろしくお願いいたします。

 

マネージャー 山下